● 最後の晩餐について
「最後の晩餐」は、イエス・キリストが処刑前夜に12使徒とともに食事をした場面を描いた作品であり、最も有名なのは1495年から1498年にかけてレオナルド・ダ・ヴィンチが制作した壁画です。この作品では、イエスが中央に座り、穏やかに前を見つめながら「この中に私を裏切る者がいる」と告げる瞬間が描かれています。その言葉を聞いた使徒たちは驚きや困惑をあらわにし、各々が異なる感情を表現しています。
イエスの左側には三人の使徒が配置されています。一番左にいるのはバルトロマイで、彼は驚いて立ち上がろうとする姿勢をとっています。その隣にいるのが小ヤコブで、両手を広げながら問いかけるような仕草を見せています。そして、アンデレは両手を上げ、驚愕の表情を浮かべています。彼らの姿勢や表情から、突然の告白に対する衝撃が伝わってきます。
次のグループには、物語の中でも特に重要な三人が並んでいます。イエスに最も近い位置に座っているのはヨハネで、彼は静かに目を伏せ、穏やかで物憂げな表情をしています。その隣にいるペテロは、ユダの肩に手をかけながら、鋭い目つきでイエスに何かを問いかけるような表情を見せています。彼の手には短剣が握られており、これは後にゲツセマネの園でイエスを守るために振るわれることを暗示しています。そして、そのペテロの隣にはユダが座っています。彼は他の使徒たちとは異なり、顔に影が落ち、身を引くような姿勢をとっています。彼の手には銀貨の袋が握られており、これが後の裏切りを象徴しています。
イエスの右側にも、驚きと困惑を見せる使徒たちが並んでいます。まず、トマスは人差し指を立て、強い疑念を抱いているような仕草をしています。その隣に座るのは大ヤコブで、両手を広げながら動揺をあらわにしています。そしてフィリポは胸に手を当て、「まさか自分ではないだろうか?」と不安げな表情を浮かべています。
さらに右端には、マタイ、タダイ、シモンの三人がいます。マタイは驚きを隠せない様子で前のめりになり、タダイとシモンに何かを問いかけています。一番右端のシモンは、比較的冷静な表情で、二人の話に耳を傾けています。
この作品では、イエスの背後に広がる壁や天井の線が一点透視図法によって描かれており、すべての視線が自然とイエスへと集まるように構成されています。また、イエスの体は安定した三角形を形成し、画面全体に静けさと均衡をもたらしています。一方で、12使徒は三人ずつの四つのグループに分けられ、それぞれが異なる感情を見せながらも、全体としては統一感のある動きを生み出しています。
この作品には、ユダの裏切りを象徴する銀貨の袋、ペテロの短剣、トマスの指など、物語の展開を暗示する細かい要素が散りばめられています。また、ヨハネの静かな姿勢は、イエスに最も近い愛弟子としての存在を象徴し、トマスの指は後に復活したイエスの傷に触れる「疑いのトマス」の場面を予告しています。
レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」は、ただの宗教画ではなく、登場人物たちの心理を繊細に描き出した作品です。使徒たちの表情や仕草を注意深く観察することで、イエスの言葉がもたらした衝撃や、それぞれの心情がより深く伝わってきます。このように、構図や表現技法、象徴的なモチーフを駆使したダ・ヴィンチの「最後の晩餐」は、絵画史において特別な意味を持つ傑作といえるでしょう。
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